アクセシビリティ重視のウェブ制作

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GAAD JAPAN 2024 参加レポート④ 視覚障害とeスポーツ(加藤大貴さん・北村直也さん/一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会)

GAAD JAPAN 2024 参加レポート④ 視覚障害とeスポーツ(加藤大貴さん・北村直也さん/一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会)

みなさんはGAADを知っていますか?
GAADとはGlobal Accessibility Awareness Dayの略です。
毎年5月の第3木曜日はGAADの日となっていて、世界各地でデジタルアクセシビリティを考える1日とされています。

日本では今年のGAADにあわせてGAAD JAPAN 2024というオンラインセミナーが開催されました。
9時45分〜19時までの間にさまざまな登壇者のお話を聞くことができる、大変ボリュームのある催しです。

そんなGAAD JAPAN 2024に参加してきましたので、今回の記事では加藤大貴さん・北村直也さん(一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会)のセッション「視覚障害とeスポーツ」について紹介します。

このセッションでは、ゲームにおけるアクセシビリティについて、深く掘り下げたお話がありました。
また、障害があってもゲームができることや、「障害があってもできる」を実現するためにアクセシビリティが大切であることを詳しく知ることができたので、当日のセッションの様子をお伝えします。

 

1. eスポーツとは

今回のセッションのテーマは「視覚障害とeスポーツ」ですが、皆さんはeスポーツを知っていますか?

eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、電子機器を使って行う娯楽、競技、スポーツを指します。
また、コンピューターゲームやビデオゲームを利用して対戦することを、スポーツ競技として捉える際に使われる名称でもあります。

 

1-1. eスポーツの特徴

eスポーツには以下のような特徴があります。

  • Ageless – 年齢に関わらず、子どもから大人まで誰でも参加できる
  • Arealess – 住んでいる地域に関わらず、インターネットを通じて世界中から参加できる
  • Handicapless – 障害の有無に関わらず参加できる
  • Contactless – 身体的接触が不要なので怪我の心配がなく、感染症などが流行していてもみんなで遊べる
  • Genderless – 性別に関係なく参加できる

このような特徴から、eスポーツはバリアフリーなものだと考えられることが多くあります。
実際、加藤さんたちも最初はそのように考えていたそうです。

 

1-2. バリアフリーeスポーツへの取り組み

しかし、実際にイベントを開催してみると、そのままではプレイできない人が多いことに気付いたそうです。
具体的には、「右腕が動かない場合どうやってプレイすればいいのか」「聴覚情報がない状態で敵の位置をどう把握するのか」といった問題が浮き彫りになりました。

そこで「しっかりしたサポートや環境があればみんなで楽しめるのではないか?」と考えた加藤さんたちは、さまざまな工夫を重ねて、年齢・性別・時間・場所・障害の有無を問わず誰もが参加できる環境を整えることにしました。

そして、その環境のもとで行われるeスポーツを「バリアフリーeスポーツ」と新たに定義したのです。

ウェブアクセシビリティチェックで対応箇所を見える化します

 

2. 日本ゲームアクセシビリティ協会とは

日本ゲームアクセシビリティ協会(GAAJ)は、「ゲームアクセシビリティの活用で繋がれる社会を目指します」をテーマに活動している団体で、加藤さんや北村さんが所属しています。

「コントローラーが握れないとゲームができない」「視覚情報がないとゲームができない」と考えている人が多くいる中、日本ゲームアクセシビリティ協会は「障害があってもゲームを始めたり続けたりできる可能性がある」ということを広く発信しています。

また、適切な仕組みやサポートがあれば誰もがゲームを楽しめると伝えるだけでなく、体験会を開いて実際にそれを体感してもらう機会を提供しているそうです。

なお、この協会は、加藤さんが代表を務める株式会社ePARAが母体となっています。

参考:日本ゲームアクセシビリティ協会のホームページ

 

3. 株式会社ePARAとは

株式会社ePARAは、「本気で遊べば、明日は変わる。」を合言葉にしています。
eスポーツを通じて、障害者の活躍を支援することを目的に設立されました。

社員数は8名で、そのうち5名が障害者です。
北村さんを含む2名が全盲の方で、筋ジストロフィーの方が1名、車椅子ユーザーの方が2名とのことです。

さらに、他にも障害のある方々が業務委託で活躍しているそうです。

参考:株式会社ePARAのホームページ

 

3-1. これまで開催したイベント

 

3-1-1. バリアフリーeサッカー

プロサッカーチーム・川崎フロンターレの小林悠選手と、車椅子ユーザー11人からなるサッカーチーム「ePARAユナイテッド」がサッカーゲームで力を合わせて戦った11ON(11人制のeサッカー)イベント。

参考:車椅子イレブンが川崎フロンターレ・小林悠選手とバリアフリーeサッカーで共闘

 

3-1-2. クロスライン

トヨタ・モビリティ基金と協力し、岡山でレースを楽しむイベントを開催。
このイベントでは、初日にホテルのパーティー会場でレーシングゲームを楽しみ、翌日は国際サーキット場で実際にレース観戦を行った。

参考:クロスライン-ボクらは違いと旅をする-

 

3-1-3. 心眼CUP(しんがんかっぷ)

視覚情報を使わず音だけでプレイする人を対象とした「ストリートファイターⅤ」の大会。
2022年の4月と5月に個人戦・団体戦が開催され、先天性の全盲の方、中途失明してから10年以上経過した方などが出場した。

参考:心眼CUP powered by SYCOM【ストリートファイターV チャンピオンエディション】開催のお知らせ

 

3-2. イベント以外の活動

 

3-2-1. ストリートファイター6のサウンドデザインに協力

開発元のカプコンから依頼を受け、ストリートファイター6のサウンドデザインに協力した。
カプコンからの「自分と相手キャラクターの距離を音の高さで表現したが実際に使えるかどうか、プレイしやすくなるかどうかのフィードバックが欲しい」という依頼がきっかけ。

デモンストレーション動画を視聴したり、実際にゲームを触ったりして、音色の分け方や音の調整についてみんなで意見を出し合い、サウンドアクセシビリティを作り上げていった。

ストリートファイター6のサウンドデザインの特徴
キャラクターの距離感
キャラクター同士の距離が近いと音が高くなり、距離が遠いと音が低くなる。
これによりプレイヤーに距離感を伝える。

キャラクターの位置関係
格闘ゲームではキャラクターの位置関係が頻繁に入れ替わる。
左右が入れ替わると音の種類が変わるようにすることで、位置関係が明確に伝わるようになっている。
たとえば、左右が入れ替わる前は「ピピピ」という音だが、入れ替わると「ポワンポワン」という音に変化する。

これらのサウンドアクセシビリティに関する北村さんのコメント
「画面に表示された文字を読み上げるゲームはあるが、ストリートファイター6は距離感や攻撃の種類など対戦に必要な要素をサウンドアクセシビリティで表現した点が非常に珍しい」

 

4. アクセシビリティ対応のeスポーツ

セッション内では、音声読み上げ機能などのアクセシビリティに対応しているゲームが、ストリートファイター6の他にも存在すると紹介されました。
紹介があった3つのゲームについて、以下にまとめます。

 

4-1. Forza Motorsport

XboxとSteam向けに発売されたマイクロソフトのレースゲーム。
アクセシビリティに力を入れて開発されている。

このゲームのアクセシビリティについて解説した動画(英語)
参考:Forza Motorsport – Blind Driving Assists

 

4-2. 音戦宅球(おんせんたっきゅう)

iPhoneなどでプレイできるアプリゲームで、「バリアフリーなサウンドスポーツアプリ」と開発者自らが明言している。
右から音が聞こえたら画面の右側をタップし、左から聞こえたら左側をタップするというシンプルなコンセプトの卓球ゲーム。

参考:音戦宅球のホームページ

 

4-3. ハースストーン

ゲーム自体に読み上げ機能が用意されているわけではないが、パッチという専用プログラムをダウンロードすることで読み上げ機能が利用できるカードゲーム。
基本的にカードのテキストをすべて読み上げることができる。

参考:ハースストーンのホームページ

 

5. 今後の取り組み

日本ゲームアクセシビリティ協会の今後の活動方針についてもお話がありました。

加藤さんは、今後の活動方針について次のように語っています。
「対戦ゲームやeスポーツに限らず、RPGやリズムゲームなど1人で遊ぶゲームもさまざまな工夫を凝らすことで、もっと多くの人に楽しんでもらえるようになります。
そのようなゲームの紹介や、必要なデバイス・工夫の紹介、さらには体験会の開催などを行っていきたいと考えています。」

さらに、北村さんは
「視覚障害があってもゲームができることを知らないという方が多くいます。
まずはストリートファイターやハースストーン、音戦卓球などを通じてゲームができることを知ってもらい、プレイヤー人口が20人、30人と増えていけば『心眼CUP』のようなトーナメントや団体戦を開催していきたいと考えています。」
というように、お話ししていました。

また、最近ではアクセシブルデバイスも充実してきており、家庭用ゲーム機に対応する製品が各社から提供されています。
たとえば、マイクロソフト製のアダプティブコントローラーや、SONY製のAccessコントローラーなどが挙げられます。

マイクロソフト製のアダプティブコントローラー
SONY製のAccessコントローラー

これらのデバイスは、家電量販店で気軽に触れられるものではなく、福祉デバイスとして扱われているため体験の機会が少ないのが現状です。

そのため、日本ゲームアクセシビリティ協会では、学校などさまざまな場所で体験できる機会を増やしていきたいと考えているとのことでした。

 

6. セッションに参加して感じたこと

私は普段ウェブのアクセシビリティに関わっているため、ゲームのアクセシビリティにはあまり馴染みがありません。
同じアクセシビリティではありますが、ウェブとゲームでは共通点もありつつ異なる部分も多いと感じ、とても新鮮でした。

セッションの中で一番驚いたのは、ストリートファイター6のサウンドアクセシビリティです。
音の高さや種類を使ってキャラクターの距離や位置を表現する方法は、これまでまったく考えたことのないものでした。
ウェブでは音の種類や高さを工夫してアクセシビリティ対応を行うことがないため、こうした表現方法があることは新しい発見でした。

一方で、「しっかりしたサポートや環境があれば、みんなで楽しめる」「年齢・性別・時間・場所・障害の有無に関わらず、誰もが参加できる環境を整える」という考え方は、ゲームだけでなくウェブにも通じるものだと思います。
ウェブでもアクセシビリティを向上させ、環境を整えることで、より多くの人がそのサイトやコンテンツを利用しやすくなると考えられるからです。

分野は異なりますが、ゲームとウェブのどちらにおいてもアクセシビリティはとても大切なものだと強く感じました。

 

7. まとめ

GAAD JAPAN 2024より、加藤大貴さん・北村直也さん(一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会)のセッション「視覚障害とeスポーツ」について紹介しました。

次回も、引き続きGAAD JAPAN 2024についてまとめていく予定です!
まだまだたくさんのセッションに参加しましたので、次回以降の記事もお楽しみに!


          この記事を書いた人        
山口 ウェブアクセシビリティマネージャー
株式会社Cyber Cats ウェブアクセシビリティマネージャー。
コーダー、ディレクターを経験する中で「使いやすいホームページ」の重要性を強く感じ、ウェブアクセシビリティ向上に取り組み始めました。
最初は個人的に行っていた活動でしたが、少しずつチームに広がり、現在は組織全体の活動となっています。
自社ホームページのウェブアクセシビリティ監修の他、社内勉強会を開いてメンバーへの情報共有や意見交換を行っています。
また、ウェブアクセシビリティをテーマにブログ執筆を行っており、基本原則の解説や自社ホームページを例に挙げて改善例の紹介などを行っています。
最近はアクセシビリティに関わる施設への取材も開始し、そこで得た経験からウェブアクセシビリティを考える活動を行っています。
詳しいプロフィールはこちらから
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